女性臨床心理士が主宰する岐阜市のカウンセリングルームです。職場ストレス・子育て・不登校・発達障害など、心の問題や悩みにお応えします。

コラム

読字・書字障害の評価と支援

2011-03-20

発達障害 トピック

2011年3月20日、岐阜臨床心理研究会主催で、読字・書字障がいの評価と支援に関する研修会が行われました。講師は東京学芸大学の小池敏英先生です。今回の研修会では、岐阜県だけでなく、愛知県、三重県、遠くは神戸から、定員超える60名のお申込みをいただき、本テーマへの関心の高さを感じます。ここでは、その研修会で学んだことを整理したいと思います。(H記)

学習性無力感の問題

知的には問題がないにもかかわらず、読み書きが特異的に苦手な子どもがいます。その子どもたちは考える力があるのに、どんな学習にもつきものの「読み書き」につまづくため、学習すべて・自分のすべてに自信をなくします。「自分は何をやってもだめだ」という「学習性無力感」によって、子どもたちは対処できる学習でさえ敬遠し始めます。そのような子どもたちは友達や教師との関係においても自信なく、引っ込み思案になり、投げやりな状態を示します。会話もたどたどしく、自信のない態度を見せる子どもと出会ったとき、もともと人見知りな性格だと思いこむ前に、「学習に自信をなくしている子どもではないか」と考えてみることが大切です。

ひらがなの読みの問題

小学校の低学年では、学習障がいの診断はせず様子観察するのが一般的です。ですが、様子を見るだけでは改善しない問題を、早期に見つけてあげることも大切なことです。講師である小池先生はさまざまな調査から、将来的に読み書き障害を示す子どもたちの多くは、低学年でひらがなの読みにつまづいていることを見出されました。小池先生は、小学2年生がスクリーニングに大切な時期であると考えられ、現在は品川区の小学校で2年生を対象にした大規模な調査を行われています。今回の研修会では、その調査結果をいろいろ教えていただきました。これらから、漢字学習習支援の前に、ひらがなの読み支援を行う必要があることがわかりました。

聴覚情報の記憶と操作(ワーキングメモリー)の弱さ

読み書き障害の子どもに、聴覚情報の記憶と操作が苦手なタイプと、視覚認知が苦手なタイプがあることを教えていただきました。前者はWISC-Ⅲを行うと「注意記憶」群の点数が落ちます。下位検査では「数唱」に特異的に表れます。後者では「知覚統合」群の点数が落ちます。二つのタイプがあるのですが、学習達成度の低い子どもたちには聴覚情報の記憶と操作が苦手なタイプが多いということで、今回の研修会は前者の方への支援を中心に説明がなされました。

読みのガイドライン

小池先生は読字障害のガイドラインに沿って調査を行ってみえ、そのガイドラインをご紹介くださいました。

⇒ 『特異的発達障害診断・治療のための実践ガイドラインーわかりやすい診断手順と支援の実際』 診断と治療社

一字の認識支援ではなく、まとまった言葉の認識支援へ

通常私たちが文字を認識するときには、見る対象に視点を焦点づけ、文字を認識しています。小池先生が調査された結果、通常は0.2秒で、2~3字をまとまって認識するのに対して、読字障害の子どもたちは短時間でいくつかの文字を認識処理することができません。そのときの子どもの様子を動画で見せていただきました。パソコンに0.2秒で瞬時にあらわれる文字を認識するというテストですが、動画を見ている私たちは、1字が出ても、言葉として瞬時に提示されても、認識できます。ところが読字障害の子どもたちは、1字だと処理できるのに、2字になると途端に文字の認識ができなくなりました。このような結果から、小池先生は子どものひらがな読み支援のさいには、まとまった言葉に認識を高める指導が有効であることを見出されました。
さらに、そのような子どもたちは音の認識にも弱いため、音韻認識を高める指導も大切です。言葉の獲得のためには、語彙ルートと非語彙ルート(音韻ルート)があることを説明して下さり、音韻を記憶することが難しい子どもたちには語彙ルート・意味づけが有効であることも説明されました。
つまり、言葉の獲得の際には「ほし」というような単語カードと、意味づけとしての「絵」と、音の三点を効果的に用いる学習が有効です。見本合わせ課題を利用した学習について、研修会では具体的に教えていただきました。

⇒ 『LD児のためのひらがな、学習支援』 あいり出版

高心像な言葉と低心像の言葉→社会科学習支援

言葉には、「高心像」な言葉と「低心像」な言葉があります。たとえば、「お正月」「水道」「時計」「手紙」はイメージしやすく、高心像な言葉といいます。一方、「地区」「年代」「行事」「作物」などは低心像な言葉です。子どもたちが漢字を読めるからといって安心するのではなく、低心像の言葉でも読むことができるのかを確かめることが大切です。実際に、読み書き障害の子どもたちの漢字の読みのテストをしてみると、高心像と低心像の漢字とでは、まったく習得率が異なることがわかります。
社会学習では頻繁に「低心像」の漢字が出てくるため、国語の本は読むことができる子どもでも、社会科の教科書は読み進むことも理解することもできないという現象が生まれます。小池先生はこの問題に対応するため、子ども夢基金を元にして、社会科学習支援のソフトを開発されました。これはインターネットで公開されて、誰でも用いることができます。小学校の教科書に合わせて、社会科に出てくる言葉を「漢字」「絵」「音」の三点から、ゲーム感覚で学ぶことができます。このサイトであらかじめ予習しておくと、授業で低心像の漢字が出てきても、理解することが可能となります。

⇒ 社会科学習支援 http://www.e-kokoro.ne.jp/ss/r/

読解の支援のためには

読解の支援のために役立つ工夫を、いくつか教えていただきました。
● 文章をどこで区切ればいいのかを書きこんであげる。
● 接続詞の意味を教えてあげると、「しかし」「そして」「さらに」などの言葉を手掛かりにして、文の流れを推測できる。
● 文章のどこに注目すればいいのか、キーワードを伝える。あるいは自分で探せるよう支援する。
● 気持ちを表す言葉を見つけて、理解できるようにする。
● いくつかの言葉を自分の力でカテゴリー化・仲間わけすることは難しいが、グループにわける指標を示すとカテゴリー化・仲間分けができる。カテゴリー化の力を強めると、読解力が高まる。

⇒ 『読解力を育む発達支援教材』 学研

書字学習と聴覚記憶→音の識別困難への支援

音の識別が困難な子どもに漢字習得を支援する際には、視覚的イメージを付与すると学習が促進されます。「音」と「言葉」を「音韻ルート」だけで習得させることは難しいため、「語彙ルート」での習得ができるよう、「絵」と組み合わせて習得していきましょう。

書字学習と視覚認知→形の識別困難への支援

漢字の形をうまくとらえることができなかったり、線がどう重なっているのかわかりにくい子どもの場合には、漢字の部品に名前をつけて、言語で記憶させることが有効です。また、自分で書くことはできなくても、部品同士を組み合わせると正解できる子どもは多いので、書かせることよりも、まずブロックの組み合わせ問題を楽しむことから始めるとよいと思われます。小池先生は楽しく学べる漢字教材をいくつも開発されていますが、以下の二つは問題を簡単に作成することができ、ご家庭でも学校でもすぐに使えます。

⇒ 『LD児のためのひらがな・漢字支援』 あいり出版
⇒ 『LD児の漢字学習とその支援』 北大路書房